過払い金請求の一連計算と分断計算について
過払い金の引き直し計算をやるうえで、対象となる取引が一連か分断かによって過払い金の金額や時効の起算日などが異なります。
このページでは、一連計算と分断計算の違いや判断基準を記載しています。また当事務所では、無料で過払い金の計算をおこなっておりますので、お気軽にご利用ください。
一連計算と分断計算とは?
同じ貸金業者で完済と借入れを繰り返している場合、過払い金の引き直し計算をする際、一連計算でおこなうか分断計算でおこなうかで、過払い金請求の結果が異なります。
通常、一連計算の方が分断計算よりも過払い金の返還額が大きくなります。ここでは下記の例をもとに、一連計算と分断計算とはどのようなものか解説します。
例:アコムから借入れをして完済し(取引A)、またアコムから借入れをし完済(取引B)。
一連計算
一連計算とは、同じ貸金業者で完済と借入れを繰り返している場合に、それぞれの取引を1つのまとまった取引(一連の取引)として計算する方法です。
上記の例では、取引Aと取引Bの2つの取引が存在します。一連計算をする場合はこの取引Aと取引Bを1つの取引として計算します。
分断計算
分断計算とは、同じ貸金業者で完済と借入れを繰り返している場合に、それぞれの取引を個別の取引(分断した取引)として計算する方法です。
上記の例で考えると、取引Aと取引Bの2つの取引はそれぞれ個別の取引として計算します。
一連計算と分断計算の時効の違い
上記で、一連計算と分断計算の解説をしましたが、なぜ一連計算の方が分断計算よりも過払い金の返還額が大きくなるのか?
それは過払い金請求の時効が関係しています。過払い金請求には最終取引日から10年という時効があり、時効が成立すると過払い金請求の権利がなくなります。
一連計算と分断計算ではこの時効の扱いが異なります。例えば、同じ貸金業者で取引A、取引B、取引Cの3つの取引をしていたとします。
一連計算として扱う場合は、取引A、取引B、取引Cの3つの取引を1つの取引として考えるため、取引Cの最終取引日が時効の起算日になります。
つまり、取引Aと取引Bが最終取引日から10年経過していたとしても、取引Aと取引Bで発生している過払い金も取り戻すことができます。
分断計算として扱う場合は、取引A、取引B、取引Cはそれぞれ個別の取引として考えるため、時効の起算日もそれぞれの取引の最終取引日となります。
つまり、取引Aと取引Bが時効を迎えてしまった場合は、たとえ取引Cが時効を迎えていなくても、取引Aと取引Bで発生した過払い金は取り戻すことができません。
このように、一連計算と分断計算とでは時効の扱いが異なるため、一連計算の方が過払い金の返還額が大きくなります。
一連と分断は過払い金請求の争点になる
上記のとおり、一連計算の方が分断計算よりも過払い金の返還額は大きくなるので、引き直し計算をする際は一連計算でおこなった方がいいです。
しかし、一連計算で出した過払い金の金額で過払い金請求をした場合、貸金業者がそのまま了承してくれることはまずありません。
通常、貸金業者は少しでも過払い金の金額を下げるため、一連計算した取引を分断された取引だと主張してきます。このようなケースでは、交渉で解決することは非常にむずかしくなります。
交渉で解決できない場合は、裁判をして解決することになります。裁判では取引が一連なのか分断なのかが争点になります。
一連と分断の判断基準
一連か分断かの判断は過払い金請求の争点になりますが、過去の裁判の判例は様々で、担当する裁判官によっても見解が異なります。
一連か分断かの判断に重要なポイントは、2回目の借入れをする際に基本契約書を結び直したかどうかです。
借入れをする際は基本契約書を取り交わしますが、同じ貸金業者から再度借入れをする場合、1回目の契約書を引き続き使用するケースと、新しい契約書を取り交わすケースがあります。
1回目の契約書を引き続き使用しているケースでは、一連の取引と判断されやすく、新しい契約書を取り交わすケースでは、分断の取引と判断されやすいです。
1つの契約書で複数の取引(基本契約が同一)
2007年2月13日の最高裁判決と2007年6月7日の最高裁判決の2つの判例により、1つの契約書で複数の取引をしている場合は、基本的には一連の取引と認められます。
しかし、契約書が1つしかない場合でも、完済から次の取引までの期間が長いと、分断された取引とみなされる可能性もあります。このようなケースの判例はまだないため、裁判官の判断によって決まります。
- 2007年2月13日の最高裁判決
事件番号 平成18(受)1187 事件名 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件 裁判年月日 平成19年2月13日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 結果 その他
判示事項 1 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否
2 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率裁判要旨 1 貸主と借主との間で継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1の貸付けに係る過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されない。
2 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分である。※引用:裁判所ホームページ
- 2007年6月7日の最高裁判決
事件番号 平成18(受)1887 事件名 損害賠償等請求事件 裁判年月日 平成19年6月7日 法廷名 最高裁判所第一小法廷 結果 その他
判示事項 カードの利用による継続的な金銭の貸付けを予定した基本契約が同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には弁済当時他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例 裁判要旨 同一の貸主と借主との間でカードを利用して継続的に金銭の貸付けとその返済が繰り返されることを予定した基本契約が締結されており,同契約には,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算するなどの条項があって,これに基づく債務の弁済が借入金の全体に対して行われるものと解されるという事情の下においては,上記基本契約は,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。 ※引用:裁判所ホームページ
複数の契約書で複数の取引(基本契約が同一ではない)
新規の借入れをするたびに契約書を結びなおしているケースでは、基本的には分断された取引とみなされます。
しかし、契約書が複数になっている場合でも、一連の取引とみなされるケースもあります。一連の取引としてみなされたケースには、以下の2008年1月18日の最高裁判決があります。
この最高裁判決を簡単に要約すると、契約書を結びなおしているケースでも、契約書の内容に差異がない場合や、完済後もキャッシングカード等でいつでも再度借入れができる場合、1回目の契約書が完済後に返還されていない場合は、一連の取引として認められる可能性が高いです。
- 2008年1月18日の最高裁判決
事件番号 平成18(受)2268 事件名 不当利得返還等請求事件 裁判年月日 平成20年1月18日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 結果 破棄差戻
判示事項 1 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否
2 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合裁判要旨 1 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されない。
2 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において,下記の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。
記 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等※引用:裁判所ホームページ
一連か分断かの判断は明確な決まりはない
このように、一連か分断かの判断は、法律などで明確に決まっているわけではなく、それぞれの裁判官の判断によります。
分断された取引であった場合でも、条件次第では一連の取引と認められるケースもあります。ご自身の取引が一連の取引なのか分断された取引なのか、わからない方はみどり法務事務所にご相談ください。